【第54回】2020年8月試験

【第54回】学科一般・問題3(2020年8月試験)

図は,ある未飽和の空気塊を,1000hPaの高度Aから断熱的に持ち上げたときの温位の高度変化を,周囲の大気の温位の高度分布とともに,横軸を温位,縦軸を気圧として示したものである。空気塊は高度Bで飽和し,高度Cで周囲の大気と温位が等しくなっている。この空気塊に関する次の文(a)~(d)の正誤について,下記の①~⑤の中から正しいものを1つ選べ。ただし,空気塊は周囲の大気と混合しないものとする。

  1. (a) 空気塊の温度は,高度Aから高度Bまで乾燥断熱減率にしたがって下降する。

  2. (b) 高度Aと高度Bにおける空気塊の水蒸気の混合比は同じ値である。

  3. (c) 高度A,高度B,高度Cにおける空気塊の相当温位はすべて同じ値である。

  4. (d) 図の範囲内では,高度Cより上の高度で空気塊は下向きの力を受ける。

(a)のみ誤り
(b)のみ誤り
(c)のみ誤り
(d)のみ誤り
すべて正しい

答え
④ (d)のみ誤り
解説 温位と相当温位について

まず温位相当温位について解説します。

温位とは「空気を断熱的に特定気圧(ふつうは1000hPa)の高度まで移動させたときの温度」です。
断熱的とは「外部との熱のやり取りが無い」状態です。

断熱変化には「乾燥断熱変化」と「湿潤断熱変化」があります。

乾燥断熱変化とは「水蒸気の凝結を伴わない変化(=潜熱の放出が無い変化)」のことです。乾燥断熱変化では、高度が1km上がるごとに温度は9.8℃減少します。

湿潤断熱変化とは「水蒸気の凝結を伴う変化(=潜熱の放出を加味する変化)」のことです。湿潤断熱変化では、水蒸気の量によって温度の減少率が変わります。
対流圏下層の場合は約4℃/km、対流圏中層の場合は約6℃/kmで温度が減少します。

例えば高度0mを1000hPaとした場合、「高度0mにある乾燥空気A」と「高度3000m(=3km)にある乾燥空気B」のどちらが暖かいか考えると、以下のようになります。

相当温位とは「温位+潜熱の効果」です。飽和している湿潤空気を断熱変化させると、水蒸気の凝結が起こります。水蒸気は凝結するときに潜熱を出します。この影響を加味したのが相当温位です。


解説 (a)について
「空気塊の温度は,高度Aから高度Bまで乾燥断熱減率にしたがって下降する。」

これはです。

問題文より「未飽和の空気塊を高度Aから断熱的に持ち上げて、高度Bで飽和に達する」ことがわかります。

なので、高度A→高度Bでは水蒸気の凝結は起こらず、空気塊は乾燥断熱変化をしています

よって空気塊の温度は、乾燥断熱減率にしたがって下降します。

解説 (b)について
「高度Aと高度Bにおける空気塊の水蒸気の混合比は同じ値である」

これはです。

まず混合比とは、湿潤空気に含まれる水蒸気と乾燥空気の比率です。

空気塊の温度や気圧が変化しても、他の湿潤空気と混ざり合ったり、水蒸気の凝結や蒸発が起こったりしないかぎり、混合比の数値は変わりません。

問題文より「空気塊は周囲の大気と混合しないものとする。」とあるので、高度Aと高度Bにおける空気塊の水蒸気の混合比は同じ値になります。

解説 (c)について
「高度A,高度B,高度Cにおける空気塊の相当温位はすべて同じ値である。」

これはです。

まず高度Aと高度Bの相当温位を考えます。

相当温位は「温位+潜熱の効果」です。潜熱は水蒸気が凝結するときに放出される熱なので、水蒸気が凝結しなければ「潜熱の効果」は0になります。

高度A→高度Bは乾燥断熱変化のため、水蒸気は凝結しません。

よって
「高度Aの相当温位」=「温位+潜熱の効果」=「温位+0」=温位
「高度Bの相当温位」=「温位+潜熱の効果」=「温位+0」=温位
となります。

問題の図より、高度Aと高度Bの温位は同じなので、高度Aと高度Bの相当温位も同じです。

次に高度Bと高度Cの相当温位を考えます。

高度Bから高度Cの変化は「湿潤断熱変化」です。

空気塊が湿潤断熱変化をする場合、相当温位は保存されます。

ポイント

湿潤断熱変化は相当温位が保存されます。

断熱変化をするということは、空気塊は「外部と熱のやり取りをしない」ことにです。

そのため、水蒸気の凝結によって発生する潜熱は、外部に放出されることなく、空気塊の中にとどまります。

よって高度Bと高度Cの相当温位は同じなので、高度A,高度B,高度Cにおける空気塊の相当温位はすべて同じ値になります。

解説 (d)について
「図の範囲内では,高度Cより上の高度で空気塊は下向きの力を受ける。」

これはです。

高度Cより上の高度における温位を見ると、「周囲の大気の温位」よりも「空気塊の温位」のほうが高いです。

そのため、「空気塊」は「周囲の大気」より暖かく、軽い空気であるため、フワフワと上昇していきます。

よって、高度Cより上の高度で空気塊は上向きの力を受けることになります。

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