【第55回】2021年1月試験

【第55回】学科専門・問題7(2021年1月試験)

気象庁が作成している天気予報ガイダンスについて述べた次の⽂(a)〜(d)の下線部の正誤について,下記の①〜⑤の中から正しいものを1つ選べ。

  1. (a) 数値予報モデルでは,予報時間が⻑くなるにつれて予測値の系統誤差の傾向が変化することがある。ガイダンスはそのような系統誤差を低減することができる。

  2. (b) 数値予報モデルでは,海陸の区別が実際と⼀致していない格⼦点がある。ガイダンスは,海陸の区別の不⼀致に起因する予測値の誤差を低減することができる。

  3. (c) 数値予報モデルが放射冷却による気温の低下を⼗分に予測できない場合は,気温ガイダンスでもそのような予測誤差を低減することはできない。

  4. (d) カルマンフィルターを⽤いた平均降⽔量ガイダンスは,数値予報モデルが予測していない⼤きな降⽔量が観測されると,それ以降のある期間にわたって降⽔量を実際より多めに予測する傾向がある。

(a)のみ誤り
(b)のみ誤り
(c)のみ誤り
(d)のみ誤り
すべて正しい
答え
③ (c)のみ誤り
解説 (a)について
「数値予報モデルでは,予報時間が⻑くなるにつれて予測値の系統誤差の傾向が変化することがある。ガイダンスはそのような系統誤差を低減することができる。

これはです。ガイダンスは、系統誤差を補正することができます。

解説 (b)について
「数値予報モデルでは,海陸の区別が実際と⼀致していない格⼦点がある。ガイダンスは,海陸の区別の不⼀致に起因する予測値の誤差を低減することができる。

これはです。

実際に、新潟県の粟島の例を見てみましょう。下図の赤丸に粟島があります。

モデル(GSM、MSM)では、粟島は海上の地点として認識されています。

一方、ガイダンスでは、この誤差を修正して実況に近い値を算出しています。

解説 (c)について
「数値予報モデルが放射冷却による気温の低下を⼗分に予測できない場合は,気温ガイダンスでもそのような予測誤差を低減することはできない。

これはです。

気温ガイダンスでは、放射冷却による気温の予測誤差も低減することができます。

ガイダンスは基本的に、系統誤差は補正できて、ランダム誤差は補正できません。

ガイダンスによる補正

  • 系統誤差→補正OK(例:地形)
  • ランダム誤差→補正NG(例:前線通過・海陸風のタイミング)

放射冷却は、天気や風などの「ランダム誤差」の要因もありますが、盆地などの地形的な要因によって起こることも多いです。

地形的な要因で起こる場合は系統誤差として補正できるので、放射冷却による気温の予測誤差も低減することができます。

解説 (d)について
「カルマンフィルターを⽤いた平均降⽔量ガイダンスは,数値予報モデルが予測していない⼤きな降⽔量が観測されると,それ以降のある期間にわたって降⽔量を実際より多めに予測する傾向がある。

これはです。

「カルマンフィルター」は、ガイダンスの手法の一つです。特徴を以下に示します。

■カルマンフィルター

ガイダンスでは説明変数と目的変数を用いて、何らかの方法で予測式を事前に作成しますが、この方法のひとつがカルマンフィルターです。

カルマンフィルターの特徴は以下です。

【メリット】

  • 係数更新(逐次学習)型(予測式の係数を随時更新することができる)→ 短い時間で変化する気象現象(気温、風、降水量など)に使える。
  • 予測式が線形(線形:一次関数的な関係、グラフにすると直線になる)→ 説明変数の変動がどの程度、予測結果に影響を与えているか把握しやすい。
  • 季節変化による数値予報モデルの誤差や変更に対応しやすい。

【デメリット】

  • 係数が更新されるので、予測特性を把握することが難しい。
  • 頻度が少ない大雨や強風などは、係数更新型によって必ずしも予測精度が向上するわけではない。

※以下のように局地的大雨によって数値予報データが過大な値となったとき、過大なデータを基にして係数を更新して変数を作ってしまうので、その後の予報が過大なものになります。(ゲリラ豪雨みたいに一時的な雨でも、その影響がこの先も続くと判断して係数を更新しちゃうイメージです。)

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