【第52回】2019年8月試験

【第52回】学科専門・問題3(2019年8月試験)

 図は,南鳥島において,ある日の9時にラジオゾンデで観測した気温,湿度,風速,風向の鉛直分布である。この図の特徴について述べた次の文(a)~(c)の下線部の正誤の組み合わせとして正しいものを,下記の①~⑤の中から一つ選べ。

  1. (a) 800hPa付近には気温の逆転層がある。これは,下層の冷たい空気層の上を暖かい空気が滑昇することにより起きる前線性の逆転層である

  2. (b) 気温の鉛直分布のみから対流圏界面を推定すると,80hPa付近は対流圏界面の可能性がある。しかし風向・風速はその上下で目立った変化がないことから,圏界面とはしない

  3. (c) 湿度の観測データは300hPa付近までしかない。これは,気温と湿度の分布の特徴から,雷によって湿度センサーが故障したためと考えられる

(a) (b) (c)
答え
⑤ 誤 誤 誤
解説 (a)について
「800hPa付近には気温の逆転層がある。これは,下層の冷たい空気層の上を暖かい空気が滑昇することにより起きる前線性の逆転層である。」

これはです。

前線性の逆転層ではなく沈降性の逆転層です。なぜなら、逆転層のすぐ上では湿度が低くなっているからです。

以下、逆転層について解説します。

■逆転層について
逆転層とは、対流圏において高度が高くなるにつれて気温が上がっている層です。逆転層ができるパターンは主に3つあります。

【前線性逆転層(移流逆転層)】
性質の違う2つの空気(暖かい空気と冷たい空気)がぶつかる所では、冷たい空気が下層、暖かい空気が上層になるように空気が移動します。下層が冷たいので、逆転層になります。

前線性逆転層では、逆転層より上で湿度が高くなるのが特徴です。

暖かい空気のほうが水蒸気をたくさん含むことができるので、湿度が高くなりやすいです。湿度が高い空気が上層にくるので、逆転層の上で湿度が上がります。

(秋田地方気象台HPより引用)

【沈降性逆転層】
高気圧では気圧が高いため、空気がぎゅうぎゅうに圧縮されていて、空気が重くなります。

重いので、ゆっくりと下降します。空気が下降すると、断熱圧縮によって気温が高くなります。すると、周囲より気温が高くなるので、逆転層ができます。

沈降性逆転層では、逆転層より上で湿度が低くなるのが特徴です。

(秋田地方気象台HPより引用)

【接地逆転層(放射性逆転層)】
放射冷却によって起こる逆転層です。

よく晴れた日の夜に、放射冷却によって地表付近の熱が上空にどんどん逃げていくと、地表付近は気温がとても低くなります。地面のすぐ近くの気温が、ちょっと上の層の気温よりも低くなるので、逆転層になります。

(秋田地方気象台HPより引用)

解説 (b)について
「気温の鉛直分布のみから対流圏界面を推定すると,80hPa付近は対流圏界面の可能性がある。しかし風向・風速はその上下で目立った変化がないことから,圏界面とはしない。」

これはです。80hPa付近は対流圏界面といえます。

圏界面には「第1圏界面」「第2圏界面」…とありますが、それぞれの定義は以下です。

・第1圏界面:500hPa面以上の高さで、ある面とそれより上2km以内の面間の平均気温減率がすべて2.0℃/kmを超えない面

・第2圏界面:「第1圏界面」の上のある面と、その面より上1km以内の面との間の平均気温減率がすべて3.0℃/kmを超える層がある場合、この層またはそれより高い層で「第1圏界面」と同様の基準により求められた面。

よって、圏界面の定義に風向・風速は考慮されていません

気温のグラフを見ると、80hPa付近より上では気温が高くなっているので、「気温減率がすべて2.0℃/kmを超えない面」となっています。

解説 (c)について
「湿度の観測データは300hPa付近までしかない。これは,気温と湿度の分布の特徴から,雷によって湿度センサーが故障したためと考えられる。」

これはです。

センサーが故障したのではなく、測定ができなくなったため、湿度の観測データは300hPa付近までになっています。

ラジオゾンデの観測では温度によって測れる湿度に限界があり、約ー40℃以下になると測定不能になります。

気温と湿度のグラフを見ると、300hPa付近で約-40℃となっているため、ここで測定不能になったと考えられます。

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