【第63回】学科専門・問題10(2025年1月試験)

台⾵の⼀般的な特徴について述べた次の⽂(a)〜(c)の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の①〜⑤の中から1 つ選べ。

(a) 台⾵の中⼼に近い領域の下層では、地表⾯摩擦の影響により中⼼に向かって吹き込む気流が⽣じ、その収束による上昇流が複数の積乱雲を組織化して、眼の壁雲を形成している。

(b) ⼀般的に海⾯⽔温が⾼いほど台⾵は発達しやすいが、海⾯付近のごく薄い層のみで海⽔温が⾼い場合、台⾵の強⾵による海⽔の混合や湧昇の影響で海⾯⽔温が低下し、台⾵の発達は抑制される傾向がある。

(c) 台⾵は、海⽔温が⾼く⼗分な熱と⽔蒸気を台⾵に供給できる環境が整っていれば、北上して傾圧性が⼤きな中緯度帯まで進⼊しても軸対称の構造を維持したまま発達することができる。

(a)(b)(c)

② a:正 b:正 c:誤

「台⾵の中⼼に近い領域の下層では、地表⾯摩擦の影響により中⼼に向かって吹き込む気流が⽣じ、その収束による上昇流が複数の積乱雲を組織化して、眼の壁雲を形成している。」

これはです。問題文の通りです。

台風は熱帯低気圧です。上空の場合、低気圧の周りでは「気圧傾度力・コリオリの力・遠心力」がつり合っている状態で風が吹きます。これを傾度風といいます。

ただし地表⾯付近では摩擦が発生するので、傾度風に加えて、摩擦力を考慮する必要があります。

台風は低気圧なので、中心付近の気圧が低いです。大気中で気圧差があるとき、高圧部から低圧部に向かって気圧傾度力が働くので、台風の周りでは外から内に向かって気圧傾度力が働いています

それぞれの力の説明

・気圧傾度力:気圧の差によって生じる力。

・遠心力:円の中心から外側に向かってはたらく力。

・コリオリ力:風向きに対して直角右向きに働く力(※北半球の場合)。

・摩擦力:風向きと反対方向にはたらく力。

傾度風に摩擦力を考慮すると、台風中心に向かって吹き込むように、風が吹きます

中心に吹き込んだ風は収束して、上昇流が発生します。その結果、複数の積乱雲を組織化して、眼の壁雲を形成するようになります。

参考:宮本佳明,「台風の急発達メカニズムと強風」日本風工学会誌,第 42 巻第1号(通号第 150 号)平成29 年1月

参考:「京」の中で成長する台風(理化学研究所)自然災害情報室(防災科学技術研究所)台風のしくみ(日本気象協会)

「⼀般的に海⾯⽔温が⾼いほど台⾵は発達しやすいが、海⾯付近のごく薄い層のみで海⽔温が⾼い場合、台⾵の強⾵による海⽔の混合や湧昇の影響で海⾯⽔温が低下し、台⾵の発達は抑制される傾向がある。」

これはです。台風が通過すると、海面水温は低下します。

実際に過去のデータを見てみましょう。2023年8月、台風7号が発生し、日本に上陸しました。

引用:台風経路図 令和5年(気象庁)に加筆

台風が南の方にあるとき(8月9日)と、太平洋を通過してたあと(8月17日)の海面水温を比較してみると、8月17日のほうが海面水温が低くなっていることがわかります。

引用:日別海面水温(気象庁)に加筆

海面水温が低下すると、台風のエネルギー源である水蒸気の蒸発が少なくなるので、台⾵の発達は抑制される傾向にあります。

台風が海面水温を下げる3つの原因

①蒸発による冷却

・台風の強い風により海面からの蒸発が盛んになる

 → 蒸発するときに海から熱が奪われる(気化熱)。

②混合による冷却

・台風の風が海面をかき回すことで、下の冷たい海水と表面の温かい海水が混ざる

 → 冷たい水が表面に来て海面水温が下がる。

③湧昇による冷却

・台風による反時計回りの風によって、海面の水が台風外側に押し出される

 →深いところの冷たい水が補うように湧き上がってくることで、海面水温が下がる。

参考:台風による水温低下(気象庁)

「台⾵は、海⽔温が⾼く⼗分な熱と⽔蒸気を台⾵に供給できる環境が整っていれば、北上して傾圧性が⼤きな中緯度帯まで進⼊しても軸対称の構造を維持したまま発達することができる。」

これはです。

傾圧性が⼤きな環境(=水平方向の温度差が大きい環境)になってしまうと、台風は軸対称構造を維持しづらくなります。

台風の軸対称構造とは、台風中心を取り囲む雲や風、温度の分布がほぼ均一で、円形対称になっている状態です。

下図はハリケーンの温度の鉛直分布ですが、図の真ん中を台風中心として、左右にほぼ対称な分布となっていることがわかります。

引用:大気の鉛直構造(福岡大学)

台風が軸構造を維持できなくなる主な要因を、以下に記載します。

非軸対称構造になりやすい環境

風の鉛直シアが大きい:台風の上部と下部が分離・傾斜しやすい。

乾燥空気の流入:流入側の対流活動が抑制されて降雨分布が偏る。

海面水温の低下:海面下の熱エネルギー供給が断たれることで台風の暖気核は維持できなくなり、構造も崩れていく。

傾圧的な環境:中緯度の前線帯やトラフに入ると、周囲に強い水平温度差(傾圧帯)が存在するため構造が変化する。台風本来の対称的な暖かいコアは崩れ、寒冷コアを伴う前線的な構造へと移行(=温低化)。

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