【第63回】学科専門・問題6(2025年1月試験)

気象庁のメソアンサンブル予報システムから作成したガイダンスについて述べた次の⽂(a)〜(c)の下線部の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の①〜⑤の中から1つ選べ。

(a) メソアンサンブル予報システムの各メンバーから作成した降⽔量ガイダンスのアンサンブル平均は、各メンバーの予測値が平滑化されるため、⼀般に、強⾬の分布や最⼤降⽔量を捉えるのには適していない

(b) 降⽔量や発雷確率のガイダンスにおいて、メソアンサンブル予報システムの各メンバーから作成したガイダンスの最⼤値(アンサンブル最⼤)は、単独のメソモデルから作成したガイダンスと⽐べて、顕著現象の捕捉率が⾼く、顕著現象の可能性を把握する上で有⽤である

(c) メソアンサンブル予報システムの各メンバーから作成した⾵ガイダンスのアンサンブル平均は、⼀般に、単独のメソモデルから作成した⾵ガイダンスより予測精度が低い

(a)(b)(c)

② a:正 b:正 c:誤

アンサンブル予報とは、初期値のわずかな違いを反映した複数の数値予報を同時に実行し、未来の気象の不確実性を評価する手法です。

1つの予報だけでなく、複数の予報を並列に走らせることで、より信頼性の高い予測やリスク評価が可能になります。

アンサンブル予報が必要となる理由

天気予報がズレる原因のひとつとして、数値予報結果の誤差が挙げられます。

数値予報の誤差は、主に以下の2つの原因によって生じます。

①初期値誤差

・観測データには必ず誤差が含まれる。

・数値予報は「現在の大気の状態(初期値)」から未来を計算しているが、観測データのわずかな誤差でも、時間が経つと予報の差が大きくなってしまう。

②モデル誤差

・数値予報モデルは、計算機の性能に合わせて空間を格子状に分割し、近似式で大気の運動を計算している。

・この近似によって、現実の大気を完全には再現できず、誤差が生じる。

引用:数値予報解説資料集(令和6年度)1.5 アンサンブル予報(気象庁)

数値予報の誤差が反映されてしまった場合、単独モデルでは、大きく外れた予報になってしまう可能性があります。

アンサンブル予報を利用することで、予報を大きく外すことを避けて、確率的に天気予報できるようになります。

アンサンブル予報のそれぞれの予測を、アンサンブルメンバーといいます。アンサンブルメンバーには、少しずつ違う誤差(摂動)を加えて、予報を作ります。

摂動を与えていないメンバーは、コントロールランと呼びます。

引用:数値予報解説資料集(令和6年度)1.5 アンサンブル予報(気象庁)

気象庁では、大気モデルのアンサンブル予報システムとして、全球アンサンブル予報システム(GEPS)、メソアンサンブル予報システム(MEPS)を運用しています。

さらに、波浪アンサンブル予報と、季節予報アンサンブルも運用しています。

引用:数値予報解説資料集(令和6年度)1.5 アンサンブル予報(気象庁)

参考:アンサンブル予報(気象庁)

ガイダンスとは、数値予報モデルの出力結果を、使いやすい形に加工・補正した予測資料です。

ガイダンスの役割

① 翻訳(変換)

・数値予報モデルは、気温・風・湿度・気圧などの物理量を時間ごとに計算します。

・しかしそのままでは「晴れ・曇り・雨」や「降水確率」などの予報要素に変換されていません。

・ガイダンスでは、これらの物理量を統計的手法で予報要素に翻訳します。

②補正(修正)

・数値予報モデルには、地形の表現や物理過程の近似などによる系統的な誤差があります。

・ガイダンスは、過去の観測データとモデル出力の関係を学習し、誤差を補正します。

引用:数値予報解説資料集(令和6年度)1.6 ガイダンス(気象庁)

ガイダンスでは、機械学習や統計手法(線形重回帰、ロジスティック回帰、カルマンフィルターなど)を使って、過去の予報と実際の観測の関係をモデル化しています。

そのモデルを使って、最新の数値予報結果を補正・変換するのが「ガイダンス」です。

参考:数値予報解説資料集(令和6年度)1.6 ガイダンス(気象庁)

「メソアンサンブル予報システムの各メンバーから作成した降⽔量ガイダンスのアンサンブル平均は、各メンバーの予測値が平滑化されるため、⼀般に、強⾬の分布や最⼤降⽔量を捉えるのには適していない。」

これはです。

アンサンブル予報では、単一予報ではわからない「予報の信頼度」や「ばらつき」が見えるため、予報の不確実性を把握できるというメリットがあります。

一方、アンサンブル予報は複数の計算の”平均値”となってしまうので、平均化によって局地的な豪雨や突風などの極端な現象が見えにくくなります。

そのため、降⽔量ガイダンスのアンサンブル平均も、強⾬の分布や最⼤降⽔量を捉えるのには適していません。

引用:数値予報解説資料集(令和6年度)1.7.6 メソアンサンブル予報システム(気象庁)

上図の「アンサンブルメンバー」のなかには強雨域が広がっている図もありますが、「(d)アンサンブル平均」を見ると、強雨域が平滑化されていることがわかります。

「降⽔量や発雷確率のガイダンスにおいて、メソアンサンブル予報システムの各メンバーから作成したガイダンスの最⼤値(アンサンブル最⼤)は、単独のメソモデルから作成したガイダンスと⽐べて、顕著現象の捕捉率が⾼く、顕著現象の可能性を把握する上で有⽤である。」

これはです。

アンサンブル予報では、複数のメンバー(予報)が存在します。

各メンバーが予測する降水量や雷発生確率の中で、最も高い値を抽出したものが「アンサンブル最大値」です。

単独のメソモデルでは1つの結果しか得られませんが、アンサンブル予報は複数の可能性を反映しています。

単独モデルでは見逃される可能性がある現象も、複数メンバーの中に含まれていれば最大値として現れることがあるので、局地的な激しい現象を捉えやすいです。

「メソアンサンブル予報システムの各メンバーから作成した⾵ガイダンスのアンサンブル平均は、⼀般に、単独のメソモデルから作成した⾵ガイダンスより予測精度が低い。」

これはです。

アンサンブル平均は、ランダム誤差が打ち消されるため、単独モデルよりも予測精度は高くなる傾向があります。

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