気象庁の⼆重偏波気象ドップラーレーダーによる降⽔の観測について述べた次の⽂章の下線部(a)〜(c)の正誤の組み合わせとして正しいものを、下記の①〜⑤の中から 1 つ選べ。
⼆重偏波気象ドップラーレーダーは、⽔平⽅向と垂直⽅向の2つの異なる振動⾯をもつ電波(それぞれ⽔平偏波、垂直偏波という)を送受信することで、従来の気象ドップラーレーダーよりも多くの情報を取得可能な観測装置である。
レーダーから送信された電波が反射されてから戻ってくるまでの経路上に強い降⽔がある場合には、それより遠⽅の降⽔については、(a) 電波が減衰してしまい実際の降⽔よりも弱いエコーが観測されることがある。電波は⾬粒のある空気中を進むとき、⾬粒がない空気中と⽐べて伝搬速度が少し遅くなる性質がある。また、⾬粒は⼤きいほど空気抵抗を受けて扁平になるが、氷粒⼦は扁平にはならない。
⼆重偏波気象ドップラーレーダーでは、このような電波や⾬粒の特徴を踏まえて、(b) ⽔平偏波と垂直偏波の反射波の位相差を⽤いることにより、⾬の強さを従来の気象ドップラーレーダーより正確に推定することが可能である。さらに、降⽔粒⼦は種別によって形状が異なるので、(c) ⽔平偏波と垂直偏波の反射波の振幅の⽐から降⽔粒⼦の形や種別を推定することが可能である。
(a) | (b) | (c) | |
① | 正 | 正 | 正 |
② | 正 | 正 | 誤 |
③ | 正 | 誤 | 誤 |
④ | 誤 | 正 | 正 |
⑤ | 誤 | 誤 | 誤 |
① a:正 b:正 c:正
気象庁では、気象レーダーを利用して、雨や雪を観測しています。
令和2年からは「⼆重偏波気象ドップラーレーダー」を導入し、「降水粒子の種別判別」や「降水の強さ」を、より正確に推定することが可能となっています。

「レーダーから送信された電波が反射されてから戻ってくるまでの経路上に強い降⽔がある場合には、それより遠⽅の降⽔については、(a) 電波が減衰してしまい実際の降⽔よりも弱いエコーが観測されることがある。」
これは正です。
レーダーはパルスを出して、降水粒子からの「返り(後方散乱)」を受信します。
しかし、手前に豪雨域があると、豪雨域を通るときにビームのエネルギーが削られ、その先(遠方)から返ってくる信号は弱くなります。戻ってくるときも同じ豪雨域をもう一度通るので、往復でエネルギーが減衰されてしまいます。

「⼆重偏波気象ドップラーレーダーでは、このような電波や⾬粒の特徴を踏まえて、(b) ⽔平偏波と垂直偏波の反射波の位相差を⽤いることにより、⾬の強さを従来の気象ドップラーレーダーより正確に推定することが可能である。」
「降⽔粒⼦は種別によって形状が異なるので、(c) ⽔平偏波と垂直偏波の反射波の振幅の⽐から降⽔粒⼦の形や種別を推定することが可能である。」
これは正です。
二重偏波レーダーは、「水平偏波」と「垂直偏波」の2種類の電波を同時に送信・受信できるレーダーです。

雨粒はおまんじゅうのような形をしていますが、雨粒が大きくなればなるほど縦幅より横幅が大きくなります。この「大きい雨粒ほどつぶれている」という性質を利用することで、雨の粒径分布を観測できます。

晴れている日よりも雨の日のほうが、電波の伝播速度は遅くなります。このとき、水平偏波と垂直偏波を比べると、水平偏波のほうが伝播速度が遅くなります。とくに雨粒が大きい(=強い雨)ほど、遅れが大きくなります。
二重偏波レーダーでは、水平偏波と垂直偏波の遅れの差を「電波の位相差」として検出し、降雨強度を推定しています。
参考:気象レーダー(気象庁)、気象ドップラーレーダーによる観測(気象庁)、二十偏波レーダーデータの活用技術(気象庁)、マルチパラメータレーダ(MPレーダ)について(防災科学技術研究所)